一般的に不動産の名義人は1人だけですが、場合によっては「共有名義」になることもあります。
共有名義の不動産を取引するにあたっては、名義人が1人だけの場合よりもいくつか注意しなければならない点があるのです。
そこで、共有名義の不動産を取引するにあたって把握しておくべきことについて解説します。
・共有名義の意味と役割の概要
・不動産取引での共有名義の一般的な用途
・不動産取引での共有名義の注意点
・共有名義が適切なケースと注意が必要なケースの例
・共有名義に伴う法的・税務的な注意事項
まずは、不動産における「共有名義」の基本的なことについて解説します。
共有名義の意味と役割の概要
「不動産の共有名義(共有持分)」とは、簡単に言えば1つの不動産(建物、マンション、土地など)を複数の人が所有している状態のことです。
基本的な形式としては、不動産の名義人は1人だけになるのですが、特殊な状況で取得した場合には複数人が1つの不動産において共同で名義人になることができます。
多いケースとしては、不動産を夫婦で購入する場合や、親が亡くなったことで親が名義人であった不動産を複数の兄弟姉妹で相続する場合などが該当します。
多くの場合は、共有名義は夫婦や親族間でなされるケースが多く、それならば誰かが代表して名義人になるということもできるでしょうし、実際にそうしたケースも少なくありません。
しかし、不動産の名義人というのはその不動産の所有者であるということを認められているということ、要するに譲渡や売買などの権利を有するということになります。
もし、実際に権利を持つ人が複数いるのに名義を単独にしてしまうと、いざというときにトラブルの原因になりかねません。
そのため、その不動産の取得に関係する人すべてを共有名義として登録することで、関係者全員がその持分に応じて権利を主張できるようにするのが、不動産の共有名義の意義なのです。
不動産取引での共有名義の一般的な用途
不動産取引における共有名義の用途としてよく用いられるのが「夫婦で共同で不動産を購入する場合」です。
多くの場合は仕事をしているほうが住宅ローンを組んで不動産を購入するので単独名義になるのですが、場合によっては夫婦それぞれが同程度の負担をして不動産を購入するケースもあります。
その場合、単独名義にしてしまうと、いざ離婚する際に権利関係が複雑になってしまうのです。
そのため、不動産購入の際に負担した割合に応じて持分を設定して共有名義にしておくと、権利関係が明確になり、離婚時の財産分与でも無用なトラブルを起こさずに済みます。
ほかには「兄弟姉妹で不動産を相続した」というケースです。
亡くなった親の資産の大半が不動産であった場合、「兄は不動産を、弟は現金預金等を」と遺産分割しようとすると不公平が生じる可能性があります。
そのため、遺産分割の対象となる不動産について相続分に合わせた持分で共有名義にすれば、遺産分割で不公平が起きにくくなります。
あと考えられるケースとしては、友人と共同出資して居住用・仕事用の不動産を購入する場合なども挙げられ、やはり保有時や手放す際のトラブルを最小限に抑えるためにも共有名義を選択する場合があるのです。
不動産取引での共有名義の注意点
実務上さまざまなケースにおいて不動産の共有名義が利用されています。
実は、共有名義にはいくつかのメリットがある一方で、場合によっては法律の専門家の力を借りないといけないようなリスクを伴う場合もあるのです。
共有名義の利点とリスクのバランス
不動産を共有名義にすることで、名義人それぞれが権利を主張できるという特徴があるだけでなく、税制上の優遇を受けられるというメリットもあるのです。
まず、住宅ローン控除を各名義人がそれぞれ利用できるというメリットがあります。
住宅ローン控除とは、住宅ローンの年末残高の1パーセントが10年間にわたって所得税または住民税から減税されるという制度であり、共有名義のケースだと住宅ローン控除が二重(またはそれ以上)で受けられるため、減税の総額が多くなるのです。
次に、売却時の特別控除も名義人の数だけ適用されます。
不動産売却時には譲渡所得を最高3千万円控除できますが、たとえば夫婦で共有名義にしている場合は夫婦それぞれで譲渡所得の控除が受けられます。
こうした税制上のメリットがある一方で、権利関係ではさまざまなリスクを伴います。
1つ目に、持分の売買はできますが、共有名義の状態だと簡単に不動産を売却できないという点がデメリットです。
共有名義の状態の不動産は、共有名義人全員の同意がなければ売却できません。
2つ目に、共有の持分についても相続が発生するという点です。
たとえば、夫婦の共有名義で購入した不動産について、配偶者が亡くなったらその配偶者の持分について子どもたちなどに相続されるため、共有名義人が増えることで売却時などの同意を得られなくなってしまうリスクが高まります。
3つ目に、場合によっては贈与の対象になるケースもあるということです。
どういうことかというと、たとえば夫のみ収入があって夫だけが費用面を負担して名義を夫婦の共有にしている場合、その実態が明確になると夫側から妻側への持分相当額の贈与がなされたとみなされ、贈与税が課せられる可能性があります。
このように、不動産の共有名義は権利関係において複雑化することがあり、場合によっては面倒なトラブルに発展するリスクを抱えているのです。
共有名義が適切なケースと注意が必要なケースの例
共有名義が適切なケースとしては、権利関係を明確にするべきであり、共有名義人それぞれが適切に出資してその割合に応じた持分で共有名義にできる場合です。
たとえば、それぞれに収入がある夫婦がそれぞれ出資してマイホームを購入する場合であれば、夫婦それぞれに権利がありますので共有名義にするべきでしょう。
共有名義が適していないケースとしては、後々に権利関係でトラブルが起きやすい場合です。
たとえば相続によって共有名義の可能性が出てきた場合だと、相続する兄弟間で仲が悪い場合だと後々にしこりを残すのは厄介でしょう。
その場合であれば、不動産を単独相続し、相続額に不公平が生じる場合は代償分割するか、不動産を売却して現金化して分割するなどの手法をとったほうが権利関係も明確でトラブルの原因になりにくいです。
共有名義に伴う法的・税務的な注意事項
共有物の使用などの権利関係については、民法において定められています。
共有物の使用は持分に相当する分だけ可能であり、管理行為については持分の過半数で可決され、保存行為は共有名義人が誰でも行えます。
不動産を所有していると「固定資産税」を負担する必要がありますが、税法上は共有者が連帯納税義務を負うという形で、実際には納税通知書は共有資産代表者の下にのみ送付されて代表者が各共有者に立替分を請求できる形です。
この納税通知書は持分に分割して各共有名義人に請求してもらうということはできません。
まとめ
不動産の共有名義は実務上さまざまなケースにおいて利用されていますが、本当に共有名義の形が最適であるかどうかはわかりません。
場合によってはトラブルの原因になる可能性もありますので、共有名義を選択するにあたってはほかの選択肢がないかどうかを入念に検討し、そのうえで共有名義を選択しましょう。