物件をテナントとして貸し出しているオーナーは、何らかの理由でテナントの借主に対して「立ち退き」を要求する場合があります。
借主側が素直に応じればスムーズに事が進むのですが、必ずしも借主がオーナー側の立ち退き要求に応じるとは限りません。
そこで今回は、立ち退きの法的な手続きの方法と、テナントの借主側の権利について解説します。
立ち退き要求の法的要件と手続きの流れ
江戸時代以前、建物や土地を借りている人の立場は非常に弱く、明治時代になってから借主側の権利を守るための法律が制定されました。
平成の時代になってその在り方は変わりましたが、依然として法律はテナントの借主側の権利を守る法律を維持し続けているのです。
オーナーが立ち退きを要求できる法的要件
オーナーはその建物の所有権を有する立場ではありますが、借地借家法が定める賃貸借契約を結んでいる以上は、借地借家法によって借主側に大幅な権利が認められ、保護されることになります。
とはいえ、平成になって従来の法律から改正された借地借家法は、借主側の権利を無制限に認めているわけではなく、一定の条件下であればオーナー側が立ち退きを要求することを認めているのです。
・借主側に契約義務違反があった
・契約更新のタイミングにおいて、立ち退き料を提示したうえで、正当な事由をもって更新を拒否する場合
・定期借家契約の期間が満了した場合
・一時使用の契約であった場合
たとえば借主側の契約義務違反について代表的なものとしては、賃料の滞納が挙げられます。
1か月や2か月では認められない可能性もありますが、あまりにも賃料を滞納し続ける場合はその証拠(支払いの督促を無視された等)を利用することで有利に立ち退き要求を進めることができるでしょう。
契約更新を拒否する場合、それが定期借家契約ではない場合だとたとえば「老朽化した建物を取り壊したい」といった理由があれば立ち退きを要求できる可能性がありますが、これは裁判で争うことになるかもしれません。
一時使用の場合も、何が一時使用に該当するのかを争点にする場合があります。
このように、意外とオーナー側は立ち退き要求に苦労することになる可能性があり、必要に応じて裁判などの手段に頼る必要も出てくるでしょう。
立ち退き交渉の流れ
実際の立ち退き交渉の流れは各自の事情によりケースバイケースではありますが、一般的には以下のような流れになります。
①オーナー側から借主側に立ち退き要求の旨を口頭で伝える
②借主側の事情を聞き取る
③立ち退き料などの条件について話し合う
④立ち退きの条件等について書面にて提示する
⑤立ち退き料の支払いなどの事務的な内容を実施する
上記は借主側に契約違反などの問題がない場合であり、賃料の過剰な滞納などの問題があれば未払い賃料の計算およびその金額を借主側に提示し、立ち退き料の交渉については必要ありません。
テナント側の権利
次に、テナントを借りている側の、立ち退き要求に対する権利関係について解説します。
借主側の権利はきちんと守られている
江戸時代であれば、貸している側から立ち退き要求があれば、借主は抵抗できずその要求に応じるしかありませんでした。
しかし、その立場を守るために明治時代に借地法や借家法が制定されたことにより、借主側の権利は大幅に守られるようになったのです。
現代では平成になって既存の法律が整理されて改正された借地借家法により、テナント側の権利が引き続き守られており、オーナー側の立ち退き要求に対して一部のケースを除けばその要求に応じる必要はありません。
もし「親戚に貸すから、来週までに退去してね」なんて言われるリスクがあれば、安心して商売ができませんよね。
もちろん、立ち退き料などの条件に納得すれば交渉に応じて立ち退きすることも可能ですので、テナント側は自分たちの契約義務や契約内容などの問題がない限りその店舗で商売を続けることが可能です。
テナント側の権利は無限ではない
とはいえ、借地借家法はテナント側の権利を無制限に認めているわけではありません。
たとえば「賃料を何か月も滞納し、オーナー側からの支払い要求を何度も無視している」「定期借家契約が満了した」という場合には、オーナー側の権利を強く認めているため、それらの問題を解消しない限り立ち退き要求をはねのけることはできないでしょう。
更新を拒否するための「正当な事由」
オーナー側は賃貸借契約の更新に関して、正当な事由がない限りこれを拒否することはできませんが、問題なのは「どういった内容が、正当な事由として認められるのか」ということにあります。
たとえば「この建物は老朽化していて放置するのは危険だ、解体工事をするから立ち退いてほしい」という事情があったとします。
これだけ聞くと緊急性が高く、たとえばテナントが入っているのがビルであれば倒壊すれば通行人に被害が及ぶ可能性もあるため、正当な事由があると考えられるように見えるかもしれません。
しかし、実際に建物の老朽化を理由に裁判所が立ち退き料なしで立ち退きを認めた判例は少なく、多くの場合は建物の老朽化+立ち退き料の支払いにより立ち退きが成立しています。
立ち退きが認められるための「正当な事由」については、さまざまな要素を総合的に加味して判断されるため、安易な理由では立ち退きに応じる必要はないといえます。
交渉が難しい場合は専門家に相談を
「立ち退きを要求するオーナー側」「立ち退きを要求されているテナント側」、いずれの立場にしても立ち退きの是非については交渉を経て決まるケースが多いです。
交渉に至る場合は「正当な事由をもってして更新をしない」というケースであるため、いかにして正当な事由がそのケースにおいて認められるかが争点となるでしょう。
正当な事由について交渉しても簡単に合意を形成できるとは限りません。
しかし、いずれの立場にしても権利や利益などの事情がありますし、場合によっては長丁場になっていずれかの立場にとって困ることになるケースもあるでしょう。
できるだけ早期に、お互いが納得できる状態で交渉を成立させるためには、弁護士に相談する必要があります。
弁護士はそのケースにおける正当な事由の是非を判断し、立ち退き料などの条件も含めて法律の専門家として交渉を円滑に進めてくれるでしょう。
まとめ
立ち退き交渉によるオーナー側・テナント側それぞれの権利は無制限というわけではなく、オーナー側は立ち退き要求を必ずしも成功できるわけではありませんし、テナント側も必ずしも権利が守られるわけではありません。
最終的には交渉や訴訟などにより解決することになりますが、その際には立ち退き問題に詳しい弁護士を間に挟むことにより、交渉をスムーズに進められるようにすることをおすすめします。